肩の脱臼は癖になる? 専門医が解説します

この記事は5分で読めます

選手A「うわっ!いてぇぇぇ!」

監督「どうした!?」

選手A「肩がまた外れました・・・けど、何とか今入りました。」

監督「またか!これで何回目だ!?ちゃんと病院に行って治したんだろう!鍛え方が足らん!」

極端に残念な監督を表現してみました(笑)

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肩関節脱臼には脱臼の中では最も多いものですが、
今もなお治療方針も世界的に移り変わっていますし、

スポーツ現場においては
誤解されたままの指導者の方や選手がいるのも事実です。

 

 

こんにちは、スポーツ整形外科医の歌島です。。
SMCの記事をご覧いただきありがとうございます。

今回は肩関節脱臼は一度やったら癖になってしまうのか?
という疑問に解説を加えながら、
できるだけわかりやすく答えていきたいと思います。

肩の脱臼は癖になる!

いきなり結論から言っちゃいましょう。

「肩の脱臼は癖になりますか?」

「かなりの確率でYESです。」

というのが答えです。

 

そして、肩関節脱臼が癖になってしまった状態に対して

「鍛え方が足りない!」と言う指導者の方や
「癖になっちゃったんだから仕方ない」と諦めてしまう人には、
一度、この記事を含めて、当ホームページをご覧いただければなと思います。

若いアスリートの50-80%が再脱臼する!

こんなデータがあります。

初めて肩を脱臼してしてしまった人のうち、
約半分が再脱臼し、
そのうちの半分(全体の1/4)が手術になるというのです。

 

 

それもこのデータは全年齢においての平均であり、
若い人に限ると、さらに悪いデータになってしまいます。

こちらのグラフをご覧ください。
肩脱臼の予後
画像引用元:Hovelius L, et al: Nonoperative treatment of primary anterior shoulder dislocation in patients forty years of age and younger: A prospective twenty-five-year follow-up. J Bone Joint Surg Am 2008

注目すべきは濃い青黄色のグラフ領域です。
濃い青再脱臼を防ぐための手術を行った人。
黄色手術は行わず、今もなお再脱臼を繰り返している人。

横軸は年齢ですが、
一番左は12歳から16歳、
その隣は17歳から19歳です。

それを見ていただくと、
10代の場合、再脱臼が治まらない、もしくは、
手術をする人が55-60%にも達しているわけです。

 

そして、若いアスリートに限ると、
再脱臼率が50〜80%とばらつきがあるものの、
相当な高い確率になってしまっています。

 

 

このデータをもって、

「肩の脱臼は癖になりますか?」

「かなりの確率でYESです。」

という結論になります。

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肩の脱臼が癖になる理由は?

では、なぜこれだけの高い確率で
肩の脱臼は癖になってしまうのでしょうか?

 

そこには肩関節に特有の問題があります。

 

肩関節は靭帯の関節の中で最も多方向に幅広く動きます。

前から上げても横から上げても、後ろから上げても、
さらにクルクル回旋もします。

 

この多方向性はボール&ソケットと呼ばれる構造が
可能にしています。
つまり、球状のものと、その受け皿になるもので、
1つの関節を作っている構造ですね。
ここまでは股関節も一緒です。

ただし、肩の場合はその動く幅が全然違うんですね。
股関節はいくら柔らかくても開脚で180°+α
つまり片方の関節では90°ずつですよね。

それに比べれば肩は倍近く動きますよね。開くだけでも。

 

それは同じボール&ソケットタイプの関節でも
ソケットの深さが全然違うからなんですね。

股関節のソケットにあたる骨盤側はこちら

股関節臼蓋 骨盤臼蓋_股関節
※画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論/運動器系 第1版 医学書院

肩関節のソケットにあたる肩甲骨側はこちら

肩関節窩 受け皿
※画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論/運動器系 第1版 医学書院

見ての通り、「受け皿」の深さが全然違うんです。

 

股関節の受け皿は「ボウル」のように深い形状をしていて、
とてもとても90°以上脚を上げたりとかまでは厳しそうですよね。
しかし、その分その中に入る球(大腿骨頭)は
簡単には外れそうもないですね。

しかし、肩関節の「ボウル」はほぼ「平皿」ですよね。
これでは、そこに置かれた球(上腕骨頭)は
自由にあらゆる方向に動きそうです。
しかし、その分、簡単に外れそうです。

 

この関節の形状そのものが、
肩の幅広い動きと、脱臼のしやすさの一番の要因です。

肩の脱臼を防いでいるものは?

この肩関節の浅いボール&ソケット構造を理解いただくと、

「どうやって普段は脱臼せずにいられるんだろう?」

という疑問がわきます。

 

その答えが、このイラストです。

関節窩_関節唇_関節上腕靭帯
※画像引用元:
Philipp N et al:Anterior Glenohumeral Instability: A Pathology-based Surgical Treatment Strategy. AAOS 2014

 

これは肩関節の受け皿側のみを外側から見ているイラストです。
関節窩が肩甲骨の受け皿で、見ての通り浅いわけですが、
その周りを縁取って(ふちどって)いるものがありますよね?

これが「関節唇」と呼ばれる、
やや固めの軟骨に近いものが受け皿の周りを縁取って、
それが受け皿を深くしています。

数値で表すと、もともとの深さが2.5mm程度しかないのを、
この「関節唇」の縁取りによって5mm~7.5mm
2-3倍になります。

それだけでも大きいのですが、
でもまだまだ浅いですよね。
1cmにも満たない深さですからね。

 

 

そこで、さらに「関節唇」の外側に目を向けていただくと、
取り囲むように関節包という膜があります。

この膜はところどころ分厚くひだひだになって、
強くなっています。
これを靭帯といいますが、

脱臼しそうなときにこの靭帯がピーンと張って、
脱臼しないように頑張ります。

 

 

つまり、まとめますと、

肩関節特有の浅いボール&ソケット構造の
「受け皿(関節窩)」を深くするために
「関節唇」というものがあって、
さらに、その外側にピーンと張った「靭帯」があるので、
この「関節唇」+「靭帯」が「壁」となって、
普段は脱臼しないということです。

肩の脱臼が癖になってしまった状態とは?

では、肩の脱臼が癖になってしまった場合は、
何が起こっているのでしょうか?

それを表したのがこちらです。
これは一度脱臼してしまった後に起こっている状態です。

バンカート病変
※画像引用元:
Philipp N et al:Anterior Glenohumeral Instability: A Pathology-based Surgical Treatment Strategy. AAOS 2014

 

さきほど解説しました、
「関節唇」というのが「受け皿」から
剥がれてしまっているのがわかると思います。

それと同時に「靭帯」もビローンと伸びちゃうんですね。
ですから、脱臼を防ぐための「壁」が
ダメになっちゃってるんですね。

 

 

ですから、すぐに脱臼しちゃう、
つまり、「癖になっちゃう」ということなんです。

 

 

ちなみに、この「関節唇」というのが「受け皿」から
剥がれてしまっている状態を

Bankart病変(バンカート病変)と呼んでいます。

まとめ

肩関節が脱臼しやすく、そして癖になりやすい理由として、

  • もともと受け皿になる肩甲骨関節窩が浅い
  • 一度脱臼してしまうと脱臼を防ぐ「壁」がダメになる

ということなんですね。

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もちろん、インナーマッスルや競技のテクニック、
脱臼しにくい動作というのも非常に大切な要素ですが、

 

それらよりも圧倒的にこの脱臼を防ぐ「壁」が大切なんですね。

そして、この「壁」はいくら鍛えても強くならないんです。
筋肉ではないですからね。

そういったことを、
「鍛え方が足りない!」と言う指導者の方にも知ってほしいですし、

「癖になっちゃったんだから仕方ない」と諦めてしまう人には、
この「壁」を手術的に治す方法があるということを
理解していただきたいので、
次はこの知識を踏まえて手術についても解説いたします。
少しでも参考になりましたら、
お気軽にシェアしていただければと思います。

では!

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