鍼灸の副作用は?しびれや神経障害の可能性は? 医師解説

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巨人の沢村投手の長胸神経麻痺が鍼灸が原因であったという報道があってから、鍼灸の副作用でしびれや神経障害が起こるのか?というような議論がなされてきました。

最初に申し上げておきたいのは、

鍼治療は僕ら医師が行う注射や手術に比べても、頻度としては副作用、合併症が少ない、安全性が高い治療です。これは間違いないと思います。

今回はオンラインの文献で鍼灸院や医師にアンケート調査したものがありましたのでそのデータを参考にしながら、整形外科医としてのわたくしの私見や意見も交えてお届けします。

さらに「鍼灸で神経障害はあり得ない!」と言い切ってしまう治療家や専門家の方々に対して、その姿勢はどうかな?と思うところがありましたので、治療する身としてのメンタリティーについてもお伝えします。

こんにちは、整形外科医でスポーツメディカルコーチの歌島です。本日も記事をご覧いただきありがとうございます。

それではいきましょう!

鍼灸治療の副作用・合併症を調査した論文

全日本鍼灸学会雑誌に2012年に掲載された
「鍼灸臨床における有害事象に関するアンケート調査」

こちらの文献は鍼灸師を対象にアンケート調査で副作用経験の有無について聞いた内容ですので、一度も経験がなければ「ゼロ」、一回でも経験があれば「1」(つまり、2回以上経験があっても「1」)という集計方法のようです。

ですから、副作用や合併症の本当の頻度を表しているわけではありませんが、相対的には多い副作用、少ない副作用ということがわかると思います。

さらにもう一つ

2013年に科研費助成事業研究成果報告書として報告された
「鍼灸の過誤および副作用の治療経験に関する医師を対象としたアンケート調査」

というものも参考にしています。

何か副作用が起こったあとは我々整形外科医の診察にいらっしゃることが多いわけですので、こちらの論文は鍼灸師へのアンケートではなく医師へのアンケートです。

多いのは出血・痛み

まず鍼灸師へのアンケートで圧倒的に多いのは出血(内出血)と痛みです。

これは想定の範囲内ですね。

出血は60%以上の鍼灸師が、痛みは50%以上の鍼灸師が経験したことがあると答えているようです。

鍼を刺せば出血します。
もちろん、大切な動脈や透見する太い静脈に刺すことは論外ですが、細い静脈や毛細血管など防げない血管損傷はあります。

痛みももちろん、刺せば痛い。
たまたま神経が過敏だった場所とか、これまた、防げないほどの細い皮神経(皮膚の感覚を司る末梢のさらに末梢の神経)に当たって痛いなどもあり得ます。

ただ、これらは多くのケースは時間経過と共に回復していく副作用と考えられます。そのため、鍼灸師へのアンケートに比べ、医師へのアンケートでは頻度は少なめでした。

重大なもので少なくないのは気胸・針が折れる・感染症

重大な副作用の中で、意外と多いなと感じさせられるのは

  • 気胸
  • 針が折れる(折鍼)や鍼が埋まってしまう(伏鍼)
  • 感染症

これらは起こっては困る重大な副作用というか合併症です。

気胸は肺に穴があいた状態

胸や背中に鍼灸治療をした際に、深すぎれば肺に届いてしまいます。そこで肺に穴があいてしまえば空気が漏れて、気胸という状態で緊急処置が必要なこともあります。

これは2%の鍼灸師が経験をお持ちのようです。

多いのが背中側の鍼灸治療のようです。真ん中の傍脊柱筋や脊椎があるエリアならまだしも、そこから右や左に逸れていけば、肋骨があって、そのすぐ奥は肺です。それにも関わらず、深くまで多くの鍼を使っていけば気胸が起こるリスクは十分あるでしょう。

ここで良く言われるのが、鍼灸で使う鍼はものすごく細いので一瞬でふさがる程度の穴しかあかないということです。

しかし、肺に刺した状態で、さらに呼吸や体動があれば、穴は徐々に拡がっていきます。油断してはいけないと言えるでしょう。

折鍼・伏鍼

これは物理的に起こりうる合併症で、非常に細い鍼を使っているからこそ折れてしまうということですね。

鍼灸師の中で3%くらいが経験ありということです。

そして、折れた位置によっては抜くことができない(伏鍼)ということもあり得るわけです。

 

当然、体内にこのような異物があれば、痛みの原因や細菌感染の原因などになります。

医師へのアンケートでは手術で摘出した経験を持っている医師もおられたようです。

これは徹底して治療家の先生に注意していただくことに尽きるでしょう。

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感染症

滅菌してある鍼を使っているから大丈夫。消毒しているから大丈夫。
感染はあり得ない。

と言い切る先生もいますが、

そんなわけはありません。

皮膚にも空気中にも細菌はいます。

皮膚を貫いて身体の中に異物を入れれば、かならず感染のリスクがあるということは肝に銘じておく必要があります。
もちろん、そのリスクが非常に少ないからこそ、われわれも注射や手術ができますし、鍼灸治療もできるわけですが、感染のリスクは常に頭には入れて治療すべきです。

この感染症を経験した鍼灸師は1.2%ということでした。

詳細は医師のアンケートの方で充実していて、一番多い感染症はなんと化膿性関節炎(膝、脊椎、肩関節、足関節など)だったとのことです。関節の中が感染してしまうと多くの場合は手術で中を洗浄しないといけない重症感染です。

しびれなどの神経障害はを経験したことのある人は2人のみ!?

しびれなどの神経障害についていですが、
鍼灸師へのアンケートでは1300名近くの回答者のうち、2名のみが経験ありということで0.2%ということです。
つまり99.8%の鍼灸師は「神経障害という副作用は起こしたことがない」ということのようです。

しかし、医師へのアンケートでは639名に聞き取り調査をして、9件の神経障害の報告が得られたようです。これは1.4%ですね。これは鍼灸師へのアンケートと違って「経験があるかないか」ではなく、「何件経験したか」という調査ですから、これも比較できるモノではありませんが、

それでも、鍼灸師が把握できていない神経障害はあり得るかもしれません。

特に麻痺やしびれが起こってしまった場合に、患者さんの心理として、その鍼灸院には行かずに病院に駆け込むということは十分あり得ます。

医師以外も医療者は合併症リスクが常にあると考えるべき

さて、冒頭でもお話ししたとおり、

澤村投手が長胸神経麻痺になり、
それがトレーナーによる鍼灸が原因だった
というニュースが先日ありました。

それについて、
鍼灸以外にも考えられる原因はあり、
特定するのは難しいかもしれない
という記事を書きました。

長胸神経麻痺は前鋸筋の作用を理解してリハビリで治す!専門医解説

この続報で、
鍼灸の学会など複数の団体が
質問状を巨人に出し、

巨人から返答があったとのことです。

以下引用です。

球団は今月7付の書面で、故障のきっかけとなった長胸神経の麻痺について、「複数の医師が、発症時期や当該選手の問診等から、トレーナーが行った鍼治療が原因となった可能性が考えられると答えた。ただし、鍼治療以外にも、強い力がかかる他の外的要因によって長胸神経の麻痺が生じた可能性もあるとの意見も出た」などと回答した。

さらに球団は「鍼治療が有効であることを十分に認識しており、現在も多くの選手やスタッフに対して鍼治療が行われている」と説明したうえで、「今後も引き続き鍼治療を活用していく方針に変わりはない」と回答したと発表した。

(https://www.google.co.jp/amp/news.livedoor.com/lite/article_detail_amp/13867477/)

これで収束かなと思いきや、

一部の鍼灸をやられている方を中心に、
「納得いかない!」というご意見が聞かれます。

僕の個人的な意見としては、
鍼灸自体は価値ある治療だと思いますから、

これ以上、過剰な反応をして、
格を下げるようなことは避けてほうがいいかなと
思うんです。

 

というのも、
「鍼灸が原因というのは誤りで、
他の原因の可能性が高い」

とまで言わないと納得しないかのような
意見が多いからです。

 

気持ちはわからなくもないですが、
複数の医師の判断の中で、
やはり、鍼灸を原因と疑う状況
だったのでしょうから、

それを「完全に誤り」と撤回するのは難しいでしょう。

鍼灸に使う針を説明しながら、
こんな細い針を使う鍼灸治療において
麻痺を起こすような神経障害は考えられない!
というような意見や記事も拝見しました。

ちょっと厳しいことを言うようですが、

人の身体に侵襲を加えて治療する医療者として、
覚悟が足りなくないかな?

と思います。

神経は非常にデリケートです。

ほんのちょっとした事で麻痺を起こす事

これは稀ではありますが、起こり得ます。

そういった患者さんを
実際に治療することが多いのは
我々整形外科医だからかもしれませんが、

つねにそのリスクは抱えながら、
治療している実感があります。

ですから、手術後、注射後、
骨折整復後、リハビリ後、
などに、神経麻痺が生じたとすれば、

それぞれ原因を完全には否定はできません。

その上で、どう治療していくか?
どう再発防止していくか?
という次のステップを考えます。

 

今回の件は、
本当に鍼灸が原因だったかなんて、
そんなのは誰もわかりません。

ただ、神経周囲になんらかの侵襲を加えれば、麻痺する可能性はゼロではありません。

ただ、その可能性が低く、治療効果は十分に期待できるから治療するわけです。

まとめ

今日の記事はあたかも、「鍼灸治療は副作用が多い危ない治療である!」と勘違いさせてしまうかもしれないという危惧がありました。

冒頭でも述べていますが、もう一度、念を押すと、

鍼治療は我々医師が行う注射や手術に比べても、頻度としては副作用、合併症が少ない、安全性が高い治療です。これは間違いないと思います。

しかし、安全性が高いけど、当然100%安全であるということではないということの中で

患者さんとして注意すべきことと、
治療家側のメンタリティーについてお伝えしたいことがありましたので、

僕自身、鍼灸治療はできない素人でありながら、生意気にも記事を書かせていただきました。参考になりましたら幸いです。

参考文献
* 「鍼灸臨床における有害事象に関するアンケート調査」全日本鍼灸学会雑誌 2012年
* 「鍼灸の過誤および副作用の治療経験に関する医師を対象としたアンケート調査」科研費助成事業研究成果報告書 2013年

診察ご希望の方
当サイト管理人 歌島 大輔

スポーツ整形外科専門医師

川崎市立井田病院
景翠会 金沢病院
さくら通り整形外科

各非常勤医師

関東の複数病院において外来診療・手術を行っている。
ケガやスポーツ障害という「マイナス」から元通りという「ゼロ」を目指すのではなく、パフォーマンスに変革をもたらす「大きなプラス」を一緒に目指す情報発信やコーチング活動をライフワークとする。

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